そして、四日になった。前日から緊張していてあまり眠れなかった。化粧をして髪の毛をブローした。リビングにはお母さんがいて、テレビを見ていた。「友達と会ってくるね」「気をつけてね」「行ってきます」家を出ると、まだ午前の空気は冷たくて、身震いした。手に息を吹きかけて温める。電車に向かって歩く途中も緊張していた。ちゃんと、思いを伝えることができるといいな……。赤坂さんに恋していると気がついたのはいつだったんだろう。かなり長い間好きだから、好きでいることがスタンダードになっている。できることなら、これから一生……赤坂さんの隣にいたい。マンションに到着し、チャイムを押すとオートロックが開いた。深呼吸して中へ入った。エレベーターが速いスピードで上がっていく。ドアの前に立つといつも以上に激しく心臓が動いていた。チャイムを押すと、ドアが開いた。「おう」「お邪魔します」赤坂さんはパーカーにジーンズのラフな格好をしているが、今日も最高にかっこいい。私は水色のセーターとグレーの短めのスカート。ソファーに座ると温かい紅茶を出してくれて隣にどかっと座った。足はだいぶ楽になったらしくほぼ普通に過ごせているようだ。「久実が会いたいなんて珍しいな」「うん……。話したいことがあって」すぐに本題に入ると、空気が変わった。赤坂さんに緊張が走っている感じだ。「ふーん。なに」赤坂さんのほうに体ごと向いて目をじっと見つめる。何から言えばいいのか緊張していると、赤坂さんはくすっと笑う。「ったく、何?」緊張をほぐそうとしてくれるところも優しい。赤坂さんは人に気を使う人。「私……、赤坂さんのことが好きなんです」少し早口で伝えた。赤坂さんは顔を赤くしているが、表情を変えない。「うん……。で?」「好きなんですけど、交際するのを断りました。その理由を話に来たんです」「……そう。どんな理由?」しっかり伝えなきゃ。息を吸って赤坂さんを見つめた。「両親に反対されています」「え、なんで?」「赤坂さんは恩人ですから……。 だから、対等じゃない……から……」頭の後ろに片手を置いて困惑した顔をしている。眉間にしわを寄せて唇をぎゅっと閉じていた。
「赤坂さんのことが好きでも……両親の言うことを聞かなきゃって思って」「ってかさ、なんで早く言わなかったんだ?」苛立った口調に怖気づきそうだった。「考えて悩んで……私もそう思ったから。それに、これ以上迷惑をかけちゃいけないって思ったの」「迷惑だと? ふざけんじゃねぇぞ」乱暴に私を抱きしめた。赤坂さんの胸に閉じ込められる。かなり早い心臓の音が聞こえてきた。「俺のこと信じろって」「赤坂さん。ごめんね」「バカ」涙があふれ出し、私は赤坂さんにしがみついた。赤坂さんはもっと強く私を抱き止めてくれる。「でも、好きな気持ちには勝てなかったの」「………」体を起こしてキスをされた。すごく優しいキスに胸が疼く。私のボブに手を差し込んで熱いキスに変わっていく。舌が絡み合い、濡れた音が耳に届いた。唇が離れると赤坂さんは今までに見たことない瞳をしている。「久実、愛してる」「……私も、赤坂さんのことが好き」「俺もだ」「今まで本当にごめんなさい」「大好きっ、赤坂さん、大好き」「うん。俺も」私も赤坂さんのために自分のできる限り尽くしたいと思った。守ってもらうだけじゃなくて、守ってあげたい。頭を撫でられて心地よくなってくる。「両親に認めてもらえるように……頑張るから」赤坂さんはつぶやいた。だけど、すごく力強い言葉に聞こえた。「近いうちに会いに行きたい」「うん………」「やっぱりさ、思いをちゃんと伝えて理解してもらうしかないから」「そうだね……」「俺はどんなことがあっても久実を離さないから。覚えてろよ」頼もしい赤坂さんに一生着いて行く。私は赤坂さんしか、いないから。きっと、大丈夫。絶対に幸せになれると思う。私は赤坂さんのことが愛しくてたまらなくて、自分から愛を込めてキスをした。エンド
久実side年末年始をゆっくり休んで、仕事が始まり、そろそろ二週間になろうとしている。赤坂さんと心も体もつながり幸せな毎日で……なんだか夢みたい。夢でありませんようにと、毎日思いながら眠りにつく。私は、ずっと逃げていた。赤坂さんと交際することはいけないことだと思っていたから。けれど、美羽さんから勇気をもらったおかげで、気持ちを伝えられたのだ。お互いの気持ちがしっかりとわかったので、これからは二人で協力してさらに前進していこうと決意していた。今の私にできることは仕事を頑張ること。そして両親に結婚を認めてもらう。そんな気持ちで、今日も、元気いっぱい仕事をしている。パソコンに向かって書類を作りっているのに、ついつい私は赤坂さんのことを思い浮かべて、胸を熱くしていた。……会いたいな。昼休みになり会社近くのカフェで同僚とランチをしていると、赤坂さんからメールが届いた。『久実の両親に早く会いたいんだけど、スケジュール確認してくれたか?』赤坂さんはスネにヒビが入りまだ松葉杖をついて仕事をしている。もうすぐ杖を使わなくても、普通に歩けるようになるらしい。大変な怪我じゃなくてよかったけれど、また怪我をしないか心配になる。私の両親に挨拶をしたいと言われているが、なかなか両親に言い出せない。でも、一歩踏み出さなきゃ、赤坂さんとの未来は開けないのに。両親の反応が怖い。せっかく、ここまで頑張ったのだから勇気を出さないと、本当の幸せは手に入らないよね。
そんなことを考えながらスマホを眺めていると……「彼氏から?」同僚がニヤニヤしながら質問してくる。興味津々という感じだ。「まぁ、そんな感じです」私は曖昧な返事をした。人には言えない恋。「どんな人? 誰に似てるの?」身を乗り出し聞いてくる。赤坂さんは赤坂さんであり、他の人に似ているとかない。好きな人が芸能人だとこういう時に、答えに困ってしまう。「そうですね……。うーん……」彼のことを気軽に話せないのが、たまに苦しい。もし週刊誌に撮られてしまっては、赤坂さんだけではなく、COLORのメンバーを傷つけてしまう。そうなると大変だ。自分のせいで迷惑だけは、かけたくない。ちゃんと親の許可を得て結婚するまでは誰にも言えない。外で堂々と会うのも、本当に気をつけなきゃ。『足の怪我が治ってからにしよう』返事をすると、すぐに返事がきた。『すぐ治る。だから、スケジュール聞いておけ。命令』相変わらず、俺様なんだからと……思いつつ、私はキュンとしてしまう。俺様だけど、甘えん坊なところもあるから、私がしっかり支えなきゃ。でも、まずは、両親に報告するのが先だよね。早く一緒に住める日がくればいいな。愛している人とずっとそばにいたい。でも……やっぱり両親のことが不安でたまらなかった。
仕事を終えて外に出ると、とっても寒くて、体を縮こませた。 年は明けているけど、春はまだ遠い気がする。春ってなかなか来ないんだよね。待ち遠しい。 電車に揺られて、自宅に帰る。この普通の日常が私にとってはありがたい。赤坂さんが助けてくれたからこそ、こうして生きていられる。 私は、ふとスマホのカレンダーを見た。 来月は美羽さんと紫藤さんの結婚パーティーがあるんだった。 こぢんまりとやると言っていたけど、その中に招待してもらえたので嬉しい。 美羽さんのこと、大好きだし。 赤ちゃん、順調に育っているのかな……。 過去にいろいろあったみたいだから今度こそは絶対に健康で生まれてきてほしいと私も陰ながら願っていた。「ただいま」 家に帰ると、お母さんが作ってくれた夕ご飯の美味しい匂いが漂っている。 「お帰り」 早く、赤坂さんとのことを言わなきゃと思うけど、緊張してしまう。 手を洗ってうがいをしていると、お父さんも珍しく早く帰ってきた。 両親が二人揃っているので、赤坂さんに会ってほしいというには、いいチャンスかもしれない。ダイニングテーブルについて、食事をはじめる。 今日は、お母さんお手製のオムライスとサラダとコーンスープが並んでいた。大好物ばかりなのに緊張して落ち着かない。 「今日は仕事どうだった?」 ……赤坂さんとのこと、言わなきゃ。言わなきゃ。言わなきゃ。 「久実!」 「あ、な、なに?」 お母さんの問いかけに驚いて顔を弾かれたように上げる。 「なんか、変よ」 「そ、そうかな……」 笑ってごまかすがお父さんも不思議そうに覗き込んでくる。これは、チャンスと受け止めるしかない。 「お父さん、お母さん。わ、私ね、赤坂さんと結婚したいの」
一気に部屋の空気が悪くなる。お父さんは無言でグラスのお茶を飲んだ。お母さんは眉間にしわを寄せて小さなため息をつく。散々反対されていたから、いい反応をしてくれないというのは予想ついていた。でも、負ける訳にはいかない。「プロポーズされたのか?」お父さんがいつも以上に低い声で問いかけてくる。怖じけそうになるけれど、私は気持ちを落ち着けて普段話をするように言葉を発した。「まぁ、そんな感じ。私は、赤坂さんがいなきゃ生きていけないの。赤坂さんが挨拶をしたいと言っていたから、会ってもらえない……かな?」お父さんとお母さんが顔を見合わせている。「お願い……。私も大人になったの。だから認めて」箸を止めていたお父さんが食事を再開する。まるで私の話を無視しているかのようだやっぱり、赤坂さんとの結婚はハードルが高い。落ち込みながら、私も食べ物を口に運んだ。味がしない……。きっとショックすぎているからだ。「久実は、自分をわかっているようでわかっていない」お父さんは、厳しく告げる。「自分は、一番自分をわかっているよ」つい、言い返してしまう。お父さんが私をギロッと睨んだ。あまり言い合いをしたくない。関係がこじれたら、もっと話がややこしくなる。部屋の空気が重いまま食事を終えた。
入浴をして自分の部屋に入ると、どっと疲れが出る。 両親は……どうしたら、赤坂さんとの交際や結婚を認めてくれるのかな。 考えてもいい案が浮かばない。 「はぁ……」 赤坂さんに会いたい。抱きしめてほしい。 スマホに着信があり確認すると、赤坂さんだ。 以心伝心みたいで嬉しい。私のスマホに彼の名前が表示されるだけで嫌なことが全部チャラになったような気がするのだ。 慌てて出る。 「もしもし」 『久実、許可は取れたか?』 「あ、うーん……」 『許してくれないか。こうなったら、行くしかないな』 「ちょっと、何を考えてるの?」 『俺は久実を愛してんの。今すぐにでも迎えに行きたい』 これって、プロポーズなのかな。ドキドキして、耳が熱くなる。 今までもプロポーズみたいなことは言ってくれたけど改めて言われると心臓がおかしな動きをする。 「私も、だよ」 赤坂さんを愛おしく思う。 『松葉杖取れたから』 「本当!よかったね!」 『ということで、次の日曜日に突撃するわ』 「はっ⁉︎」 『じゃあな。ちゃんと寝ろよ』 電話が切れてしまい、私は、唖然としていた。 突撃されたら、お父さんは、もっと怒るかもしれない。ど、どうしよう。 冗談なのか、本気なのかわからない。そこが赤坂さんらしいのだけど。 突撃するわ、とか言いつつ、本当に来ないだろうとどこかで思っていた。
週末まで仕事をして、金曜日の夜になった。赤坂さんが日曜日に突撃すると言っていたけれど、本当なのだろうか。冗談で言っていると信じたいけれど、彼はまっすぐな性格をしているから、冗談じゃない気もする。でも本当に家に来てしまったら、修羅場になるのではないか。不安な気持ちのまま夕食を食べて、何気なくテレビを見ていると赤坂さんが画面に映し出された。その姿を見るだけで私の心臓は一気にドキドキし始める。すごくかっこいいし、早く会いたくなる。許されるなら同棲をし、今後して、家族になりたい。そんな感情がどんどんと溢れてくるのだ。私の感情を打ち消すかのように、お母さんはさり気なくチャンネルを変えた。「……お母さん」そんな意地悪しないでと心の中でつぶやく。お母さんは小さなため息をついた。そして私に視線を向けないまま口を開く。「忘れるなら早いほうがいいのよ。二番目に好きな人と結婚すると、幸せになるって言うでしょ?」私に言い聞かせるようなそれでいて独り言のような感じだった。「お母さんは、二番目に好きな人がお父さんだったの?」「……」ここほこっとわざとらしく咳をして話をはぐらかされてしまった。お母さんは立ち上がって台所へ行ってしまう。たとえ幸せになれなくても私は一番目に好きな人と結婚したい。反抗的な感情が胸の中を支配していた。
赤坂side音楽番組の収録を終えた。楽屋に戻ると、大樹は美羽さんに連絡をしている。「終わったよ。これから帰るから。体調はどうだ?」堂々と好きな人とやり取りできるのが、羨ましい。俺は、久美の親に結婚を反対されているっつーのに。腹立つ。会うことすら許してもらえない。大きなため息が出てしまう。私服に着替えながらも、久実のことを考える。久実を幸せにできる男は、俺だけだ。というか、どんなことがあっても離さない。俺は久美がいないと……もう、生きていけない。心から愛している。どんな若くて綺麗なアイドルなんかよりも、世界一、久実が好きだ。どうして、久実のご両親はこんなにも反対するのか。俺に大切な娘を預けるのは心もとないのだろうか。なんとしても、久実との交際や結婚を認めてほしい。一生、久実と生きていきたいと思っている。俺のこの真剣な気持ちが伝わればいいのに……。日曜日に実家まで押しかけるつもりでいた。 強制的に動かなければいけない時期に差し掛かってきている。 苛立ちを流し込むように、ペットボトルの水を一気飲みした。「ご機嫌斜め?」黒柳が顔を覗き込んでくる。「別に!」「スマイルだよ。笑わないと福は訪れないよ」「わかってる」クスクス笑って、黒柳は楽屋を出て行く。俺も帰ろう。「お疲れ」楽屋を出てエレベーターに乗る。セキュリティを超えて ドアを出るとタクシーで帰る。一人の女性をこんなにも愛してしまうなんて予想していなかった。自分の人生の物の見方や思考を変えてくれたのは、間違いなく久実だ。きっと彼女に出会っていなければ、ろくでもない人生を送っていたに違いない。
週末まで仕事をして、金曜日の夜になった。赤坂さんが日曜日に突撃すると言っていたけれど、本当なのだろうか。冗談で言っていると信じたいけれど、彼はまっすぐな性格をしているから、冗談じゃない気もする。でも本当に家に来てしまったら、修羅場になるのではないか。不安な気持ちのまま夕食を食べて、何気なくテレビを見ていると赤坂さんが画面に映し出された。その姿を見るだけで私の心臓は一気にドキドキし始める。すごくかっこいいし、早く会いたくなる。許されるなら同棲をし、今後して、家族になりたい。そんな感情がどんどんと溢れてくるのだ。私の感情を打ち消すかのように、お母さんはさり気なくチャンネルを変えた。「……お母さん」そんな意地悪しないでと心の中でつぶやく。お母さんは小さなため息をついた。そして私に視線を向けないまま口を開く。「忘れるなら早いほうがいいのよ。二番目に好きな人と結婚すると、幸せになるって言うでしょ?」私に言い聞かせるようなそれでいて独り言のような感じだった。「お母さんは、二番目に好きな人がお父さんだったの?」「……」ここほこっとわざとらしく咳をして話をはぐらかされてしまった。お母さんは立ち上がって台所へ行ってしまう。たとえ幸せになれなくても私は一番目に好きな人と結婚したい。反抗的な感情が胸の中を支配していた。
入浴をして自分の部屋に入ると、どっと疲れが出る。 両親は……どうしたら、赤坂さんとの交際や結婚を認めてくれるのかな。 考えてもいい案が浮かばない。 「はぁ……」 赤坂さんに会いたい。抱きしめてほしい。 スマホに着信があり確認すると、赤坂さんだ。 以心伝心みたいで嬉しい。私のスマホに彼の名前が表示されるだけで嫌なことが全部チャラになったような気がするのだ。 慌てて出る。 「もしもし」 『久実、許可は取れたか?』 「あ、うーん……」 『許してくれないか。こうなったら、行くしかないな』 「ちょっと、何を考えてるの?」 『俺は久実を愛してんの。今すぐにでも迎えに行きたい』 これって、プロポーズなのかな。ドキドキして、耳が熱くなる。 今までもプロポーズみたいなことは言ってくれたけど改めて言われると心臓がおかしな動きをする。 「私も、だよ」 赤坂さんを愛おしく思う。 『松葉杖取れたから』 「本当!よかったね!」 『ということで、次の日曜日に突撃するわ』 「はっ⁉︎」 『じゃあな。ちゃんと寝ろよ』 電話が切れてしまい、私は、唖然としていた。 突撃されたら、お父さんは、もっと怒るかもしれない。ど、どうしよう。 冗談なのか、本気なのかわからない。そこが赤坂さんらしいのだけど。 突撃するわ、とか言いつつ、本当に来ないだろうとどこかで思っていた。
一気に部屋の空気が悪くなる。お父さんは無言でグラスのお茶を飲んだ。お母さんは眉間にしわを寄せて小さなため息をつく。散々反対されていたから、いい反応をしてくれないというのは予想ついていた。でも、負ける訳にはいかない。「プロポーズされたのか?」お父さんがいつも以上に低い声で問いかけてくる。怖じけそうになるけれど、私は気持ちを落ち着けて普段話をするように言葉を発した。「まぁ、そんな感じ。私は、赤坂さんがいなきゃ生きていけないの。赤坂さんが挨拶をしたいと言っていたから、会ってもらえない……かな?」お父さんとお母さんが顔を見合わせている。「お願い……。私も大人になったの。だから認めて」箸を止めていたお父さんが食事を再開する。まるで私の話を無視しているかのようだやっぱり、赤坂さんとの結婚はハードルが高い。落ち込みながら、私も食べ物を口に運んだ。味がしない……。きっとショックすぎているからだ。「久実は、自分をわかっているようでわかっていない」お父さんは、厳しく告げる。「自分は、一番自分をわかっているよ」つい、言い返してしまう。お父さんが私をギロッと睨んだ。あまり言い合いをしたくない。関係がこじれたら、もっと話がややこしくなる。部屋の空気が重いまま食事を終えた。
仕事を終えて外に出ると、とっても寒くて、体を縮こませた。 年は明けているけど、春はまだ遠い気がする。春ってなかなか来ないんだよね。待ち遠しい。 電車に揺られて、自宅に帰る。この普通の日常が私にとってはありがたい。赤坂さんが助けてくれたからこそ、こうして生きていられる。 私は、ふとスマホのカレンダーを見た。 来月は美羽さんと紫藤さんの結婚パーティーがあるんだった。 こぢんまりとやると言っていたけど、その中に招待してもらえたので嬉しい。 美羽さんのこと、大好きだし。 赤ちゃん、順調に育っているのかな……。 過去にいろいろあったみたいだから今度こそは絶対に健康で生まれてきてほしいと私も陰ながら願っていた。「ただいま」 家に帰ると、お母さんが作ってくれた夕ご飯の美味しい匂いが漂っている。 「お帰り」 早く、赤坂さんとのことを言わなきゃと思うけど、緊張してしまう。 手を洗ってうがいをしていると、お父さんも珍しく早く帰ってきた。 両親が二人揃っているので、赤坂さんに会ってほしいというには、いいチャンスかもしれない。ダイニングテーブルについて、食事をはじめる。 今日は、お母さんお手製のオムライスとサラダとコーンスープが並んでいた。大好物ばかりなのに緊張して落ち着かない。 「今日は仕事どうだった?」 ……赤坂さんとのこと、言わなきゃ。言わなきゃ。言わなきゃ。 「久実!」 「あ、な、なに?」 お母さんの問いかけに驚いて顔を弾かれたように上げる。 「なんか、変よ」 「そ、そうかな……」 笑ってごまかすがお父さんも不思議そうに覗き込んでくる。これは、チャンスと受け止めるしかない。 「お父さん、お母さん。わ、私ね、赤坂さんと結婚したいの」
そんなことを考えながらスマホを眺めていると……「彼氏から?」同僚がニヤニヤしながら質問してくる。興味津々という感じだ。「まぁ、そんな感じです」私は曖昧な返事をした。人には言えない恋。「どんな人? 誰に似てるの?」身を乗り出し聞いてくる。赤坂さんは赤坂さんであり、他の人に似ているとかない。好きな人が芸能人だとこういう時に、答えに困ってしまう。「そうですね……。うーん……」彼のことを気軽に話せないのが、たまに苦しい。もし週刊誌に撮られてしまっては、赤坂さんだけではなく、COLORのメンバーを傷つけてしまう。そうなると大変だ。自分のせいで迷惑だけは、かけたくない。ちゃんと親の許可を得て結婚するまでは誰にも言えない。外で堂々と会うのも、本当に気をつけなきゃ。『足の怪我が治ってからにしよう』返事をすると、すぐに返事がきた。『すぐ治る。だから、スケジュール聞いておけ。命令』相変わらず、俺様なんだからと……思いつつ、私はキュンとしてしまう。俺様だけど、甘えん坊なところもあるから、私がしっかり支えなきゃ。でも、まずは、両親に報告するのが先だよね。早く一緒に住める日がくればいいな。愛している人とずっとそばにいたい。でも……やっぱり両親のことが不安でたまらなかった。
久実side年末年始をゆっくり休んで、仕事が始まり、そろそろ二週間になろうとしている。赤坂さんと心も体もつながり幸せな毎日で……なんだか夢みたい。夢でありませんようにと、毎日思いながら眠りにつく。私は、ずっと逃げていた。赤坂さんと交際することはいけないことだと思っていたから。けれど、美羽さんから勇気をもらったおかげで、気持ちを伝えられたのだ。お互いの気持ちがしっかりとわかったので、これからは二人で協力してさらに前進していこうと決意していた。今の私にできることは仕事を頑張ること。そして両親に結婚を認めてもらう。そんな気持ちで、今日も、元気いっぱい仕事をしている。パソコンに向かって書類を作りっているのに、ついつい私は赤坂さんのことを思い浮かべて、胸を熱くしていた。……会いたいな。昼休みになり会社近くのカフェで同僚とランチをしていると、赤坂さんからメールが届いた。『久実の両親に早く会いたいんだけど、スケジュール確認してくれたか?』赤坂さんはスネにヒビが入りまだ松葉杖をついて仕事をしている。もうすぐ杖を使わなくても、普通に歩けるようになるらしい。大変な怪我じゃなくてよかったけれど、また怪我をしないか心配になる。私の両親に挨拶をしたいと言われているが、なかなか両親に言い出せない。でも、一歩踏み出さなきゃ、赤坂さんとの未来は開けないのに。両親の反応が怖い。せっかく、ここまで頑張ったのだから勇気を出さないと、本当の幸せは手に入らないよね。
「赤坂さんのことが好きでも……両親の言うことを聞かなきゃって思って」「ってかさ、なんで早く言わなかったんだ?」苛立った口調に怖気づきそうだった。「考えて悩んで……私もそう思ったから。それに、これ以上迷惑をかけちゃいけないって思ったの」「迷惑だと? ふざけんじゃねぇぞ」乱暴に私を抱きしめた。赤坂さんの胸に閉じ込められる。かなり早い心臓の音が聞こえてきた。「俺のこと信じろって」「赤坂さん。ごめんね」「バカ」涙があふれ出し、私は赤坂さんにしがみついた。赤坂さんはもっと強く私を抱き止めてくれる。「でも、好きな気持ちには勝てなかったの」「………」体を起こしてキスをされた。すごく優しいキスに胸が疼く。私のボブに手を差し込んで熱いキスに変わっていく。舌が絡み合い、濡れた音が耳に届いた。唇が離れると赤坂さんは今までに見たことない瞳をしている。「久実、愛してる」「……私も、赤坂さんのことが好き」「俺もだ」「今まで本当にごめんなさい」「大好きっ、赤坂さん、大好き」「うん。俺も」私も赤坂さんのために自分のできる限り尽くしたいと思った。守ってもらうだけじゃなくて、守ってあげたい。頭を撫でられて心地よくなってくる。「両親に認めてもらえるように……頑張るから」赤坂さんはつぶやいた。だけど、すごく力強い言葉に聞こえた。「近いうちに会いに行きたい」「うん………」「やっぱりさ、思いをちゃんと伝えて理解してもらうしかないから」「そうだね……」「俺はどんなことがあっても久実を離さないから。覚えてろよ」頼もしい赤坂さんに一生着いて行く。私は赤坂さんしか、いないから。きっと、大丈夫。絶対に幸せになれると思う。私は赤坂さんのことが愛しくてたまらなくて、自分から愛を込めてキスをした。エンド
そして、四日になった。前日から緊張していてあまり眠れなかった。化粧をして髪の毛をブローした。リビングにはお母さんがいて、テレビを見ていた。「友達と会ってくるね」「気をつけてね」「行ってきます」家を出ると、まだ午前の空気は冷たくて、身震いした。手に息を吹きかけて温める。電車に向かって歩く途中も緊張していた。ちゃんと、思いを伝えることができるといいな……。赤坂さんに恋していると気がついたのはいつだったんだろう。かなり長い間好きだから、好きでいることがスタンダードになっている。できることなら、これから一生……赤坂さんの隣にいたい。マンションに到着し、チャイムを押すとオートロックが開いた。深呼吸して中へ入った。エレベーターが速いスピードで上がっていく。ドアの前に立つといつも以上に激しく心臓が動いていた。チャイムを押すと、ドアが開いた。「おう」「お邪魔します」赤坂さんはパーカーにジーンズのラフな格好をしているが、今日も最高にかっこいい。私は水色のセーターとグレーの短めのスカート。ソファーに座ると温かい紅茶を出してくれて隣にどかっと座った。足はだいぶ楽になったらしくほぼ普通に過ごせているようだ。「久実が会いたいなんて珍しいな」「うん……。話したいことがあって」すぐに本題に入ると、空気が変わった。赤坂さんに緊張が走っている感じだ。「ふーん。なに」赤坂さんのほうに体ごと向いて目をじっと見つめる。何から言えばいいのか緊張していると、赤坂さんはくすっと笑う。「ったく、何?」緊張をほぐそうとしてくれるところも優しい。赤坂さんは人に気を使う人。「私……、赤坂さんのことが好きなんです」少し早口で伝えた。赤坂さんは顔を赤くしているが、表情を変えない。「うん……。で?」「好きなんですけど、交際するのを断りました。その理由を話に来たんです」「……そう。どんな理由?」しっかり伝えなきゃ。息を吸って赤坂さんを見つめた。「両親に反対されています」「え、なんで?」「赤坂さんは恩人ですから……。 だから、対等じゃない……から……」頭の後ろに片手を置いて困惑した顔をしている。眉間にしわを寄せて唇をぎゅっと閉じていた。